研究系及び研究施設の現状 191
鈴 木 敏 泰(助教授)
A -1)専門領域:有機合成化学
A -2)研究課題:
a) アモルファス性有機電子輸送材料の開発 b)有機n 型半導体の開発
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 有機エレクトロルミネッセンス(E L )素子は次世代のフラットディスプレーとして注目されているが,これを構成 する電子輸送材料は選択の余地がないほどに少ない。このため我々は全フッ素置換されたフェニレンデンドリマー および直線状オリゴマーの合成と評価を昨年度までに行っている。今年度は,ベンゼン環の 1,3,5 位にオリゴパラ フェニレン基をもつ全フッ素置換体の合成と評価を行った。ベンゼン環をそれぞれ10, 13, 16個もつPF -10Y , PF -13Y , PF -16Y は,D S C 測定でガラス転移のみが観測され,安定なアモルファス固体であることがわかった。PF -10Y の電子 移動度は 10
-4
cm
2
/V s であり,アモルファスn 型半導体としてはかなり大きな値を示した。また,PF -10Y は最近注目 されている燐光 E L 素子のホールおよびエキシトンブロック層として最も優れた材料であることがわかった。 b)最近,有機トランジスタ( F ield E ffect T ransistor:F E T )に注目が集まっている。これを構成する有機半導体は,たとえ
ばセキシチオフェンに代表されるようにそのほとんどがp 型であり,n 型のものは少ない。p 型および n 型から構成
される消費電力の小さい相補型集積回路を構築するためには,大気中安定で電子移動度の高い有機n型半導体の開 発が必要である。また,有機単結晶を使ったF E T ではレーザー発振や超伝導が観測されるなど基礎物理としても大 きな関心を集めている。有機n 型半導体は既存の化合物かその改良にとどまっており,合理的な分子設計による全 く新しい分子というのは見当たらない。我々は,有機 E L 素子の電子輸送材料開発から得た知識を使い,有機 F E T に 適した新規n 型半導体の開発を進めている。具体的には全フッ素置換により電子受容性を高め,分子骨格にはでき
るだけ平面性の高いものを用いる。これにより,電子注入が改善され,結晶性が高くなることにより電子移動度の向 上が期待できる。今年度,目標としていた完全フッ素化セキシチオフェンの合成に成功した。X線構造解析によると この分子は結晶中で完全な平面で,π スタック構造をとることがわかっている。現在トランジスタの作成を進めて いるが,この方向での高い電子移動度が期待できる。
B -1) 学術論文
Y. SAKAMOTO, S. KOMATSU and T. SUZUKI, “Tetradecafluorosexithiophene: The First Perfluorinated Oligothiophene,” J. Am. Chem. Soc. 123, 4643 (2001).
M. IKAI, S. TOKITO, Y. SAKAMOTO, T. SUZUKI and Y. TAGA, “Highly Efficient Phosphorescence from Organic Light-Emitting Devices with an Exciton-Block Layer,” Appl. Phys. Lett. 79, 156 (2001).
B -4) 招待講演
鈴 木 敏 泰 , 「フッ素 化フェニレンデンドリマーおよびオリゴマーの 合 成と有 機 発 光 素 子 への応 用 」, 有 機フッ素 化 学 セミナー, 岡山 , 2001 年 9 月 .
192 研究系及び研究施設の現状 C ) 研究活動の課題と展望
最近,次世代の有機電子材料として「単一分子素子」や「ナノワイヤー」等のキーワードで表される分野に注目が集まってい る。S PM技術の急速な発展により,単一分子メモリ,単一分子発光素子,単一分子ダイオード,単一分子トランジスタなど基 礎研究が現実的なものとなってきた。一個の分子に機能をもたせるためには,従来のバルクによる素子とは異なった分子設 計が必要である。計測グループとの密接な共同研究により,この新しい分野に合成化学者として貢献していきたい。現在行っ ている有機半導体の開発は,単一分子素子研究の基礎知識として役立つものと信じている。